執筆:桐谷
先日、フリーランスとして受けた案件で、予想もしなかったトラブルに巻き込まれました。それは、3ヶ月契約のコンサルティング業務の2ヶ月目のことです。突然クライアントから「社内の方針転換により、今月末で契約を終了したい」というメールが届いたのです。
問題は、すでに2ヶ月分の業務は完了しており、最終月の報告書も80%ほど作成していたこと。しかし相手は「成果が期待に届かなかった」という理由で、2ヶ月目の報酬の半額と3ヶ月目の報酬全額の支払いを拒否してきました。
契約書を読み返してみると、「甲乙協議の上、中途解約できる」という条項はあるものの、その場合の報酬の扱いについては明記されていません。法律用語だらけの契約書を何度読んでも、自分に非があるのか、相手に問題があるのか判断できませんでした。

法人営業の経験はあったけど、個人の法律問題は全く別物で途方に暮れました…。
その夜は不安で眠れませんでした。「このまま泣き寝入りするしかないのか」「でも弁護士に頼むお金もない」。堂々巡りの思考が続きました。
弁護士相談のハードルとAIを選んだ理由
法律相談の現実的なコスト
翌朝、まず考えたのは弁護士への相談です。インターネットで「法律相談 費用」と検索すると、初回相談だけで30分5,000円から1万円が相場だと分かりました。着手金となるとさらに数十万円が必要になるケースもあります。
私のケースでは未払い額が約15万円。仮に弁護士に依頼して着手金20万円を支払ったら、勝訴しても赤字です。少額訴訟という手もありますが、平日に裁判所へ行く時間を考えると、フリーランスの私には機会損失も大きい。
「まずは自分で状況を整理してから、本当に弁護士が必要か判断したい」。そう思った私は、ふと、日頃クライアントに提案しているAIツールのことを思い出しました。
「そうだ、私はAIコンサルタントじゃないか。クライアントには『AIで業務効率化できます』と提案しているのに、自分の問題には使わないなんておかしい」。そう考えた私は、自分自身の法律トラブルをAIで解決できないか試してみることにしました。

AIコンサルタントなのに自分で試さないのはプロ失格だと思い、ダメ元でChatGPTに相談してみました
AIなら24時間無料で何度でも相談できる
AIツールの最大の魅力は、時間とコストの制約がないことです。あの不安で眠れなかった夜、もしAIに相談していれば、少しは気持ちが楽になったかもしれません。深夜2時だろうと早朝5時だろうと、スマホを開けばすぐに相談できます。何度質問し直しても、追加料金はかかりません。
また、友人や家族に相談すると「それはひどい話だね!相手が悪いよ!」と感情的な共感は得られますが、具体的な解決策は見えてきません。むしろ「絶対に戦うべきだ」といった感情的なアドバイスで、冷静さを失ってしまう危険もあります。
一方、AIは感情に流されず、冷静に法的観点から状況を整理してくれます。「あなたの気持ちは分かります」といった共感の言葉はありませんが、その代わりに「法的には○○という主張が可能です」という客観的な情報を提供してくれるのです。

夜中に不安で眠れない時、すぐ相談できるのは本当に心強かったです。
【実践】ChatGPTで法律相談した全ステップ
ステップ1:状況を整理してAIに入力
まず、私はトラブルの経緯を時系列で箇条書きにまとめました。
– 4月1日:契約締結(3ヶ月間、月額10万円)
– 4月〜5月:1ヶ月目、2ヶ月目の業務を完了し報告書も提出
– 6月15日:3ヶ月目の業務80%完了時点で、クライアントから突然の契約終了通知
– 6月20日:2ヶ月目の報酬半額(5万円)と3ヶ月目の報酬全額(10万円)の支払い拒否通知
契約書、メールのやり取り、納品した報告書など、関連する資料もすべて手元に準備しました。そしてChatGPTを開き、次のように入力しました。
「私はフリーランスのコンサルタントで、3ヶ月の業務委託契約を結びました。2ヶ月目が終わった時点で、クライアントから『成果が期待に届かない』として一方的に契約終了を告げられました。既に2ヶ月分の業務は完了しており、3ヶ月目も80%進んでいます。しかし相手は、2ヶ月目の報酬の半額と3ヶ月目の報酬全額の支払いを拒否しています。契約書には『甲乙協議の上、中途解約できる』と書かれていますが、私との協議は一切ありませんでした。法的にはどのような主張ができるでしょうか?」
送信ボタンを押した瞬間、少しドキドキしました。「本当にAIが法律のことを理解して答えてくれるのだろうか」という不安があったからです。
しかし、わずか数秒後に返ってきた回答を見て、私は驚きました。AIは私が説明しきれていなかった点について、的確な質問を返してきたのです。
これらの質問を見て、私は「ああ、これらが法的に重要なポイントなんだ」と理解できました。一つ一つの質問に答えながら、自分の状況が客観的に整理されていくのを感じました。

5W1Hで状況を説明したら、AIが的確な質問を返してきて、自分でも気づいてなかった重要ポイントが見えました
ステップ2:関連法律と解決策の提示
追加の質問にすべて答えると、AIは該当する可能性のある法律を教えてくれました。
まず、私の契約が「請負契約」なのか「委任契約」なのかによって、適用される法律が変わること。私の場合、「コンサルティング業務」という性質上、委任契約に該当する可能性が高いことを教えてくれました。
そして、民法第651条(委任契約の解除)について詳しく説明してくれました。「委任契約は各当事者がいつでも解除できる」が、「相手方に不利な時期に解除した場合は損害賠償責任がある」という内容です。
さらに、民法第648条(受任者の報酬)についても言及。「委任事務を履行した割合に応じて報酬を請求できる」という規定があることを、分かりやすい言葉で説明してくれました。
つまり、私のケースでは以下の主張が可能だと整理されました。
1. 2ヶ月目の業務は完了しているため、全額請求できる
2. 3ヶ月目も80%完了しているため、少なくともその割合の報酬は請求できる
3. 不利な時期の一方的解除のため、損害賠償請求の可能性もある
さらに驚いたのは、解決策を複数提示してくれたことです。「訴訟を起こす」という選択肢だけでなく、次のような段階的なアプローチを示してくれました。
– ステップ2:それでも応じない場合は、消費者センターや弁護士会の無料相談を利用する
– ステップ3:少額訴訟(請求額60万円以下)を検討する
– ステップ4:通常訴訟も視野に入れる
それぞれの方法について、メリット・デメリット、かかる時間や費用の目安まで教えてくれました。例えば、内容証明郵便は費用が1,000円程度で済むが法的拘束力はない、少額訴訟は1回の審理で判決が出るが控訴できない、といった具合です。
この情報を得て、私は「まずは内容証明郵便から始めよう」と決心できました。

「いきなり裁判じゃなく、段階的なアプローチがあることを知れたのが大きかった」
ステップ3:弁護士相談の準備まで完了
AIとのやり取りを通じて、私の頭の中は完全に整理されました。
– 法的根拠:民法第651条、第648条
– 主張内容:2ヶ月目全額+3ヶ月目の8割=計18万円を請求
– 必要な証拠:契約書、業務報告書、メールのやり取り
– とるべき手順:内容証明郵便→無料相談→少額訴訟
さらに、AIに「内容証明郵便の文面を作成してください」とお願いすると、法的に適切な表現の文面を作成してくれました。
「前略」「貴殿との間で締結した業務委託契約につきまして」といった形式的な部分から、「民法第648条に基づき、履行済み業務に対する報酬を請求いたします」といった法的主張まで、完璧な文面でした。
ただ、念のため専門家のチェックを受けたいと思い、地元の弁護士会の無料相談を予約しました。通常、法律相談では「まず何が問題なのか」という整理から始まりますが、私の場合は論点が完全に整理されていたため、弁護士は開口一番「よく準備されていますね」と言ってくれました。
相談時間はわずか30分。弁護士からは「この準備があれば、内容証明で解決できる可能性が高い。文面も法的に問題ありませんが、この部分だけ少し表現を変えましょう」とのアドバイスをもらいました。
結果的に、弁護士費用は無料相談の枠内で済み、追加費用は一切かかりませんでした。

AIで準備したおかげで、弁護士との相談がスムーズに進み、費用も最小限で解決の道筋が見えました」
そして、弁護士のアドバイスを反映した内容証明郵便を送付。すると、わずか5日後に相手から連絡があり、「改めて検討した結果、全額支払います」という返答が来ました。結局、裁判にも至らず、穏便に解決したのです。
この体験を通じて、私は「AIは法律問題の入口として、本当に有効だ」と確信しました。
AIで法律相談する5つのメリットと3つの注意点
【メリット】こんなに便利だった
実際に使ってみて感じたメリットを5つにまとめます。
1. 24時間無料で相談できる:営業時間を気にせず、思い立った瞬間に相談開始できます。夜間や休日でも問題ありません。私のように夜中に不安になった時でも、すぐに相談できるのは心強いです。
2. 専門用語を分かりやすく説明:「瑕疵担保責任」「債務不履行」「履行遅滞」など、難しい法律用語を中学生でも分かる言葉で説明してくれます。「つまり、こういうことですか?」と確認すると、「その理解で正しいです」と答えてくれる対話性も素晴らしいです。
3. 複数の選択肢を提示:一つの解決策に固執せず、状況に応じた複数のアプローチを教えてくれるため、冷静に判断できます。感情的に「訴えてやる!」となりがちなところを、「まずは穏便な方法から」と導いてくれました。
4. 弁護士相談の準備になる:論点が整理された状態で専門家に相談できるため、相談時間と費用を大幅に節約できます。私の場合、30分の無料相談枠内で必要な情報がすべて得られました。
5. 何度でも聞き直せる:理解できるまで何度でも質問でき、角度を変えた質問も気兼ねなくできます。「さっきの説明をもう少し詳しく」「別の例で説明して」といったリクエストにも快く応じてくれます。

友人に相談すると感情論になるけど、AIは淡々と法的観点を教えてくれるのが良かったです。
【注意点】AIの限界も理解しておこう
一方で、AIにも限界があることを理解しておく必要があります。
1. 正式な法的助言ではない:AIは一般的な情報提供はできますが、個別具体的な法的判断はできません。最終的な判断は必ず弁護士などの専門家に相談してください。私も最終的には弁護士のチェックを受けました。
2. 最新の法改正に未対応の場合も:AIの学習データには時期的な限界があります。最新の法改正や判例には対応していない可能性があるため、重要な決定の前には最新情報を確認しましょう。AIも「この情報は○○年時点のものです」と前置きしてくれることが多いです。
3. 個人情報は匿名化する:相談内容を入力する際、相手の実名や住所などは「A社」「B氏」のように匿名化することをおすすめします。私も実際の社名は伏せて相談しました。

AIはあくまで情報整理のツール。判断は必ず人間がすべきです。
法律相談に使えるおすすめAIツール3選
私が実際に試した中から、特に使いやすかったツールを3つ紹介します。
ChatGPT(最もバランスが良い)
OpenAIが提供する対話型AI。法律相談の入門には最適です。無料版でも十分な回答が得られますが、有料版(月20ドル)ならより詳細な分析が可能。日本語の精度も高く、初心者でも使いやすいインターフェースです。私が今回使ったのもこれです。
Claude(長文の契約書分析に強い)
Anthropic社が開発したAI。最大の特徴は長文の処理能力。契約書全文を貼り付けて「問題点を指摘して」と依頼すると、条項ごとに詳細な分析をしてくれます。複雑な契約書のチェックには特におすすめです。
Perplexity(情報源を明示)
検索エンジンとAIを組み合わせたツール。回答の根拠となる情報源のURLを明示してくれるため、裏取りがしやすいのが特徴。「この情報は本当に正しいのか?」と不安な時に便利です。

個人的にはChatGPTで相談→Claudeで契約書チェックの併用がおすすめです
【実例】AIで解決の糸口を見つけた2つの事例
私の周囲でも、AIを活用して法律問題を解決した事例が増えています。
事例1:フリーランス契約の報酬未払い
これは私自身のケースです。上記で詳しく説明した通り、AIに相談した結果、内容証明郵便という方向性が見えました。AIに「内容証明郵便の文面を作成してください」と依頼すると、法的に適切な表現の文面を作成してくれました。
これを弁護士にチェックしてもらい、若干の修正を加えて送付。結果、相手は1週間以内に全額を支払ってきました。弁護士費用は無料相談の枠内で済み、実質的な費用は内容証明の郵送料約1,000円のみでした。
事例2:賃貸の敷金返還トラブル
これは知人の事例ですが、賃貸マンションの退去時に法外なクリーニング費用を請求されたケース。壁紙の全面張替え費用8万円、ハウスクリーニング費用5万円など、合計15万円もの請求が来たそうです。
知人がAIに相談したところ、「国土交通省の原状回復ガイドライン」という基準があることを教えてもらいました。このガイドラインによれば、通常の使用による劣化(経年劣化)は借主の負担にならず、故意・過失による損傷のみが対象とのこと。
知人はこの情報をもとに大家と交渉。最終的に、明らかな過失で付けた傷の修繕費2万円のみを負担することで合意し、13万円の返還を勝ち取りました。

どちらも弁護士に頼まず、AIの情報をもとに自分で交渉して解決できました
まとめ:AIは法律問題の”最初の相談相手”として最適
私の体験を通じて言えることは、AIは弁護士の代わりにはなりませんが、「最初の相談相手」としては非常に優秀だということです。
感情的になりがちな法律トラブルで冷静さを取り戻し、論点を整理し、次の一手を考える助けになります。そして何より、「一人で悩んでいる」という孤独感から解放してくれます。
おすすめの流れは「AIで情報整理→論点が複雑なら専門家へ→簡単なら自分で対応」というステップです。多くのケースでは、AIの助けを借りれば専門家に頼らずとも解決の糸口が見つかります。
法律の知識がない方こそ、まずは無料のAIに相談してみてください。一人で抱え込んで悩むより、はるかに建設的な時間を過ごせるはずです。

法律の知識がなくても、AIが親身に教えてくれる時代。一人で抱え込まず、まずは気軽にAIに相談してみることをおすすめします!AIコンサルタントとして多くの企業にAI活用を提案してきましたが、今回は自分自身が一番のユーザーになりました。
この体験があったからこそ、これからはもっと自信を持ってクライアントにAIを勧められます!
【免責事項】
本記事は筆者の個人的な体験に基づく情報提供であり、法的助言ではありません。記事内の情報は執筆時点のものであり、法律や制度は変更される可能性があります。個別具体的な法律問題については、必ず弁護士や司法書士などの専門家にご相談ください。
本記事の情報を利用したことによって生じたいかなる損害についても、筆者は責任を負いかねます。